心臓移植とは

14.拒絶反応

 人の体には、自分以外のもの(非自己)が血液中や組織内に入ってくると、程度の差はありますが、自己の体を守るためにそれを排除しようとする働きがあります(免疫学的攻撃)。この反応が、移植の場合には拒絶反応になって現われます。本来の自分の臓器でない移植心に対して、自分の(レシピエントの)血液成分やリンパ系細胞が免疫学的攻撃を起こして、移植された心臓の心筋を傷害することになります。
 移植後3カ月以内に起こることが多く、年月が経過するにつれて減少してきますが、まったく無くなってしまうものではありません。拒絶反応は、ほとんどの患者に起こりますが、きっちりと免疫抑制剤を服用していれば、拒絶反応のほとんどは軽いもので、適切な治療を行えば治ります。心臓移植後3カ月間は拒絶反応や合併症が特に起こりやすい時期なので、それらの早期発見が大切です。早期に発見して、早期に治療すれば、ほとんどの場合治ります。この時期の検査が多いのは、そのためです。自分自身の健康チェックもたいへん重要になります。拒絶反応を予防するために、心臓移植後は免疫抑制剤を服用し続けなくてはなりません。しかも担当医はその患者さんにあった量の免疫抑制剤を処方しますので、決して自分勝手に薬を飲むのをやめたり、量を変更したりしないようにしなければなりません。
 拒絶反応には、心臓移植直後に心筋が障害される超急性拒絶反応(予めドナーに対する抗体を持っている場合に起こる)、移植後早期に心筋が障害される急性拒絶反応、術後6カ月以降に起こってくる冠状動脈病変を主体とした慢性拒絶反応(後述)の3つがあります。一般的に拒絶反応という場合には、急性拒絶反応のことをいいます。

急性拒絶反応の症状

(1) 発熱(38℃以上になることもあるが、多くは微熱)  
(2) 全身倦怠感  
(3) 体重増加またはむくみ(浮腫)

などが認められますが、拒絶反応に特有の症状はありません。重症の場合は心臓の機能が低下し、心不全の症状が出てきます。 移植後3カ月以内は、ちょっとした体調の変化でも担当医に連絡をとることが肝要です。

拒絶反応の早期発見

 退院後は定期的に外来で担当医の診察を受けたり、定期検査を受けねばなりませんが、ふだんの自分自身で行う健康チェックが大変重要です。
 移植後3カ月以内は1日に1~2回、3カ月以降は体調の変化があったときに、体温や体重を計って記録します。特に、移植後3カ月以内は、全身倦怠感、気分不良、足のむくみなどちょっとした体調の変化でも担当医に連絡をとることが重要です。
 拒絶反応を発見するための定期的検査には、聴診、心電図、胸部レントゲン撮影、心エコー検査、血液検査、心筋生検があります。これらの検査の頻度も、移植後3カ月以内は多く、3カ月以後は徐々に減少して行きます。

心筋生検

 拒絶反応の診断のための検査として現在のところ最も信頼度の高い、基本的検査です。右の頚部から(時に鼠径部から)、経静脈的にカテーテルを右心室内に挿入し、右心室の壁(筋肉)の一部を採取して、顕微鏡で調べる検査です。
 心筋生検の結果は、半日ないし1日後にでて、この結果に基づいて拒絶反応の程度を診断し、拒絶反応の治療を行うかどうかを決定します。拒絶反応には特有の症状がありませんので、心臓移植手術後1カ月は1週間毎、術後3カ月までは2週間毎、6カ月までは月1回、1年までは3カ月に1回、その後は年に1回、期的に心筋生検を行います。
 また、拒絶反応の疑いがあり、医師が必要と認めた場合には、それ以外にも行うことがあります。外来で行うこともありますが、普通は検査当日を入れて2日間入院します。合併症として、非常に稀ですが、気胸、心室壁の穿孔などがあります。しかし、適切な処置を行えば心配ありません。

急性拒絶反応の治療

 心筋生検で程度が軽いことがわかった時は、経過をみるか、のみ薬を一時的に増量して様子をみます。この時、患者さんが自分の判断で薬の量を変更したり、逆に辛抱し過ぎたりすると、せっかく移植した心臓が駄目になってしまい、ひどい場合には命を落とすことになります。
 中等度以上の場合は入院して治療を受けます。まず大量のステロイドの静脈内投与を3日間(ステロイドパルス療法といいます)行います。治療終了後2~4日目にもう一度心筋生検を行い、拒絶反応が治ったかどうかを調べます。1回で治らないときにはもう一度パルス療法を行います。7~8割はこれで治りますが、2回のステロイドパルス療法でも治る傾向もみられない場合には、ステロイドに加えて他の強力な免疫抑制剤(OKT3、ATGなど)を追加します。拒絶反応が非常に高度の場合や、ステロイドの大量療法を繰り返しても進行するような場合は、専用個室に収容して強力に免疫抑制を行います。
 また、如何なる治療を行っても拒絶反応が治らず、心機能が低下して心不全に陥った場合には、一時的に機械的補助循環を使用したり、時には再び別のドナーからの心臓を移植することもあります。

慢性拒絶反応(移植心冠動脈硬化症)

 移植後6カ月以降に起こってくる冠状動脈の動脈硬化性病変のことをいい、移植後5年で20~30%の人がかかると言われています。その原因は不明で、今のところ有効な治療法はありませんが、高血圧や高脂血症を予防することによって、慢性拒絶反応の発生が減少すると言われています。また、サイトメガロウイルスの感染が慢性拒絶反応に関係するとも言われており、サイトメガロウイルス感染の予防が大切です。
 この拒絶反応が進行した場合には、今のところ再び心臓移植を受けるしか方法がありません。
 移植された心臓には感覚神経がありませんので、冠状動脈に著しい動脈硬化が起こっても、胸痛(狭心痛)を感じることはなく、したがって慢性拒絶反応の初期には全く症状がなく、ある程度進行してから心不全症状があらわれます。そのため、たとえ胸痛などの症状のない場合でも、心臓移植後3、6カ月目及び1年後以降は1年に1回、冠状動脈造影と冠動脈血管内超音波(エコー)検査を行う必要があります。