心臓移植とは

6.特発性心筋症

 特発性心筋症の原因はまだ解明されていませんが、心筋が徐々に変性して線維に置き代わり、力がでなくなり、最後には体に充分な血液を送り出せなくなる病気です。時に、細菌やウイルスによる心筋炎や、遺伝的素因が原因の心筋症もあります。
 初めから心臓がどんどん大きくなって、収縮する力がなくなってしまう拡張型心筋症、初めは心臓の筋肉は分厚くて症状がほとんどないが、後で徐々に心筋が薄くなってきて心臓が大きくなる肥大型心筋症拡張相、心臓の筋肉にはほとんど異常はありませんが、何らかの原因で心臓が拡張できない(心臓が膨らめないと、体から還ってきた血液は心臓に入れません)拘束型心筋症の3つのタイプがあり、拡張型心筋症が最も多いタイプです。
 心臓のポンプ機能の低下にともない、心臓は拡大し、肺の水分量が増加してきて、息切れを生じるようになり、放置すれば死に到る病気です。
 最近、内科的治療が目覚ましく発展し、様々な薬剤、例えば強心剤、利尿剤、カルシウム拮抗剤、βブロッカー、アンギオテンシンII阻害剤などの薬を服用することによって、症状が軽減し、寿命が長くなりました。特にβブロッカー、アンギオテンシンII阻害剤は良く効き、以前は拡張型心筋症と診断されただけで、平均余命が1年と言われていたのが、現在ではこういった薬剤が効けば、90%近くの人が10年くらい生きることができるようになってきました。従って、心筋症と診断されたから必ず心臓移植をすぐに受けなくては死んでしまうというものではありません。

 しかし、これらの薬は、根本的に病気を治すものではなく、いずれはこれらの薬も効かなくなることがあります。また、これらの薬を使うとかえって心不全が強くなる人もいます。このような方が、心臓移植をうける必要があるのです。  
  また、最近、左心室の一部を切り取って大きくなった心臓を小さくすることで一時的に心臓の働きを良くしようとする手術、バチスタ手術が脚光を浴びています。確かに取り除く部分が特に動いていない患者さんで、しかも僧帽弁に逆流の見られる患者さんでは、心臓の働きが非常に良くなり、予後とともに、QOL(生活水準)も良くなることが報告されています。しかし、そのような患者さんでない方にバチスタ手術を行うと、却って心不全が強くなったり、早くに死んだりしてしまうこともあり、注意が必要です。また、一旦良くなっても、根本的に病気を治す手術ではありませんので、徐々に心不全が再発する場合があります。ドナー不足が極めて深刻な日本ではなくてはならない手術の1つではありますが、患者さん毎に十分吟味して、手術を受けていただくかどうかを決めなければならないでしょう。  
 また、ここでは詳しいことは省略させていただきますが、最近補助人工心臓を装着して内科的治療を行うと心不全が改善されることがあることや、実験的に傷んだ心臓に骨髄や骨格筋から採取した細胞を移植すると心機能が改善するという再生医療が注目されてきていますが、将来的にはこれらの治療も心臓移植の代替治療となるかもしれません。  
 これらの治療方法も含めて、重症な心不全の患者さんの治療を外科の立場から考えると、図のようになります。即ち、まず内科的な治療としてβ遮断剤、ACE阻害剤を行い、次に強心剤の点滴や考えられる手術を試み、それでも心機能が改善しなければ補助人工心臓(LVAS)を併用した治療を行い、それでも心不全が改善しない場合に、心臓移植が行われるようになるでしょう。ただ、現時点では、補助人工心臓装着以降の治療法は効果が未確定なので、強心剤の点滴や考えられる外科的治療法がなくなった場合に心臓移植を受ける必要があると判断されるのです。